2023/04/24
黒猫ミステリー賞 第1回受賞作 発表
ミナヅキトウカの思考実験
受賞者
佐月 実(さつき みのり)
1998年、茨城県生まれ。同県在住。大学在学中にデビューを目指すも吉報なく、現在は駆け出し社会人として日々邁進中。デビュー作が学生時代の作品だったため、「みんな働きながら書いてるって正気か……?」と軽く絶望している。趣味は読書、(カード)ゲーム、アニメ鑑賞。特技は餃子の皮包み。好きなテーマは蠱惑魔。VTuberに推しがいる。
受賞コメント
この度は第一回黒猫ミステリー賞に選出いただき、誠にありがとうございます。
恐れ多くも大賞を頂いた本作ですが、着想の原点は何気ない雑談でした。バイト先に優秀な塾生がいて、いつも早めに授業が終わってしまうので、終わりの十分くらいを(勝手に)フリートークの時間にしていたのです。思考実験の話を聞かせたのは、確かラプラスの悪魔からだったと思います。その後哲学の分野からも話題を取り入れ、その頃には「こういう小説を読みたいな」というイメージが出来上がっていました。
ですので、受賞の連絡を頂いたときには思いがけず震えました。あのときの雑談から生まれた話が、賞をいただいたのかと。それと同時に、すとん、と、「ああ、あの物語がちゃんと誰かの心に届いたのだな」と妙に安心したのを覚えています。
改めまして、選考に携わりました皆様、何度も背中を押してくれた母、いつも素直に褒めないけれど、誰よりも近くで応援してくれた読者一号の某。そして何より、最後まで諦めないでいてくれた過去の自分に、最大級の感謝を。
この度は本当に、身に余る素晴らしい賞をありがとうございました。また近く、皆様にお目にかかれる日を心待ちにしております。
作品概要
数学科に通う大学生の神前裕人(かんざきひろと)は、新入生歓迎会の帰り道、ひょんなことから殺人事件の現場に遭遇。被疑者として警察署に連れていかれることとなる。一旦は拘束を解かれるも、嫌疑をかけられたままの状態に不安を感じた裕人は、捜査一課の宗方藤治(むなかたとうじ)の促しに応じる形で、自身が通う大学の古びた会館に足を運ぶことに。怪異研究会のサークル部屋で、ソファに寝ていた哲学科の水無月透華(みなづきとうか)との出会いを果たした裕人の日常は、その日を境に一変。透華に振り回されながら、さまざまな事件の現場に足を踏み入れていくことに……。怪異の仕業とも取れる犯罪行為を、古代ギリシャに端を発するさまざまな「思考実験」を元に考察。答えを導き出していく新感覚ミステリー。
総評および受賞者講評
2021年の新設から約2年。準備期間、応募期間、審査期間を経て、ようやく受賞作を発表する日を迎えることができました。
応募総数は462点。ジャンルや設定にとらわれない「広義のミステリー小説を」と掲げた本賞には、フーダニット、ホワイダニットといった王道ものから、倒叙ミステリー、医療ミステリー、イヤミスまで、陽春にふさわしく、まさに百花繚乱、色とりどりの作品群が届きました。
今回一番多かった応募者層は30代ですが、10代から80代までの幅広い世代の方が、それぞれ個性のある「暗闇の中で光るストーリー」を送ってくださり、事務局一同、鼓動を高鳴らせながら一作品一作品を味わわせていただきました。
さて、記念すべき第1回の受賞作に輝いたのは、佐月実さんの「ミナヅキトウカの思考実験」です。
本作の書き手は24歳で主人公は大学生。会話運びは軽妙ながらも、推理シーンは極めて重厚で本格的。そこはかとなく漂う「怪異」の存在に翻弄されながらも、古典的な思考実験を元に仮説の真偽を検証していく主人公の気迫……その様が真に迫り、審査員を圧倒しました。